大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)34号 判決

一 特許庁における手続経過、原告が本願の技術内容として、その特許請求の範囲および発明の詳細な説明として記載した内容、および本件審決の内容の要旨(原告請求原因一、二および三記載の事実)は、当事者間に争いはない。

(本願の技術内容)

二 そこで、原告の主張する本願の技術内容についてみるに、その請求の範囲および発明の詳細な説明において記載されているところからみれば、本願のねらいとするところが、深山幽谷その他木材等繊維性植物の生育する現地において、採取したチツプ原料を直ちに細片化したものを地勢水流に添い、風の力あるいは水の力を用い、送出筒によつて、工場その他の需要地まで完全正確且つ迅速に輸送しようとするにあることは了解するに難くないところではあるが、そのねらいとするところを達成するためにどのような具体的技術をどのように用いようとするのかの点については、採取現場から送り先まで概ね地勢水流に添つて送出筒というものを布設するというに止まり、さらに進んでこの送出筒の具体的な構造、あるいはチツプを輸送するため、水力あるいは風力をどのようにして取り入れるかについては、その技術内容が明確にされているとはいえない。

このように、本願の技術内容について、そのねらいとするところが前記のような一定の方向を指向しているとしても、本願の明細書において記載されたところからは、そのねらいとする課題を解決する具体的な手段については必ずしも明確にされているとはいえないから、かりに本願の技術内容の実体において、いかにすぐれたものが秘められているとしても、その点が明らかにされていない以上、その記載をもつてしては、当該技術分野における通常の知識を有する者がその実体を理解するに由なく、ましてこれを実施しようとしてもその手掛りとするところを見出し難いというほかはない。ただ、前記の記載から、その技術手段の一つとして、送出筒と名づけられている輸送管にチツプといういわば固体小片を送水に混じて遠方の地点まで輸送する装置も、本願のものの一つに考えていると見て間違いはないであろう。

(引例の技術内容)

三 本件審決において挙げられた引例の技術内容についてみるに、その成立に争いのない乙第十号証の記載によれば、この引用例には、その名称の示す通り、「固体粒子のポンプによる遠距離輸送装置」に関する技術が記載されており、右技術は、輸送管を通して、固体粒子を送水に混じて遠距離まで輸送する装置に関するものであることを認めるに足りる。

(両者の対比)

四 そこで、本願の技術内容に包含されているところと引例とを対比してみると、いずれも相当遠距離の地点(たとえその距離に遠近の相違があるにしても)まで固体粒子(本願のものの固体小片もこれを固体粒子と同一ないし均等のものといつてよいであろう。)を送水に混じて輸送しようとする点においては同じであり、引例がその方法について具体的技術手段を提示しているのに対し、本願においては、その記載が明確にされていないとの相違点があるとはいえ、両者をこの点に限つて対比すれば、引例のものは本願にとつても、その具体的手段の一つであるといつてよい(なお、原告自からも本訴において、本願のものも、平地においては、引例のものを併用することもありうる旨主張している)。

以上のように、本願の技術内容には、すでに公に知られている引例の技術内容が包含されているということができ、しかも、本訴に現われたあらゆる資料を検討してみても、右公知の技術内容を超え、さらに発明としての実体を具備した技術内容を推測させるところは見当らない。結局、本願においては、原告の国土保全と能率の増進とを目標とし、木材経済の新産業に貢献せんとする意図と熱意は、これを了し得るとしても、その意図を達せんがための装置としては、その明細書において「嶮阻な山岳断崖渓谷等の奥地にある植物の未利用材を急速且最高度に採取してそれぞれ現地において細片としたものを、水源の保安保水能力の助勢を考慮し、概ね地勢水流に添い山肌を荒さないように布設した送出筒によつて新鮮なものを完全正確且つ迅速に直送する装置」と記載するのみであつて、右は殆んど単にその希望を抽象的に表現したに止まり、その装置の具体的なものについては殆んどその記載を欠くものであつて、右明細書の記載及び前記特許請求範囲の記載からは、僅かに前認定のような水力利用の送出筒によるチツプの輸送装置を推測せしめるにすぎず、結局、本願は前記の引例に既に容易に実施し得べき程度に記載があるものと同一ないし均等のものとしてその登録を拒絶されても、やむをえないところであるというのほかはない。

(その他の原告の主張等について)

五 原告は、引用例は固体粒子に関する発明であるが、本願は木材削片(チツプ)であり、物体、性能、性質、形状ないし産業部門を異にすると主張する。そしてなるほど、引用例は固体粒子に関する遠距離輸送装置に関するものであり、本願は木材削片等(繊維性植物を削砕したもの)の輸送装置に関するものであること前認定事実からして明らかであるが、引用例のものにおいては、そのいわゆる固体粒子について格別の限定をしていないこと前示乙第十号証に徴して明らかであり、本願のものの木材削片も前記明細書の記載から見て、これも木材等繊維性植物を削砕した固体小片であつて、引用例のものにいう固体粒子と同一ないし均等のものと見るのを相当とすること前記のとおりであるから、原告の右主張はこれを採用することはできない。

また引例のものは水力のみを使用するに対し、本願のものは風力または水力を使用するの差がないではない。しかし固体粒子等の輸送謀体動力として風力を使用するか水力を使用するかは、必要に応じて当業者の容易に選択し得る技術常識の範囲を出ないものと考えられ、この点に本願の特許性ないし新規性を認めるわけにはいかない。

原告はまた引例はポンプ、タンク、輸送管等の機械力本位のものであるが、本願は自然力本位で、ことに落差を利用するためポンプを必要としない、自然法則活用の技術的創作のうち最高度のものであるという。そしてなるほど、本願がポンプ等を使用せず、流水の落差等による自然力を利用せんとするものであり、その意味において自然力本位であり、自然法則を活用せんとするものであることは明らかであつて、その点において引用例のようなポンプ等の機械力を使用するものとの間に大きな差のあることは十分これを了し得るところである。そしてまた、原告のいうが如く、機械力を使用することなく、自然力だけを利用して本願所期のような作用効果を生み出し得るものとすれば、これは引例に比して大いに勝るところがあり、国土保全経済安定に寄与すること正に原告主張のとおりであろう。しかし、本願において、原告の特許を求めんとするそのいわゆる発明なるものは、その明細書についてこれを見れば、右のような理想的、希望的願望がただ抽象的に記載せられているに止まるのであつて、これを具体的に、如何にして風力あるいは水力等の自然力を利用するかの技術的手段については何らの記載もないこと前認定のとおりである。

元来、出願発明として主張されているところのものが、引用例に示されているものと異なり、一つの独立した発明として特許に価するものであるといわんがためには、引用例に示されている技術思想との相違点を具体的に把握し得る程度にその技術思想が明確にされていて、しかもその点が新規な或いは進歩性のある発明というに価するものであることを要するものと解すべきである。

引用例記載のものとの相違点として主張されているところのものが抽象的には理解し得ても、未だ具体的な技術思想として把握できない程度のものである場合には、むしろ端的にいつて発明未完成のものということもできるのであるが、同時にまた一方からみれば、引用例に示されている技術思想と別異の具体的な技術思想が認められないような場合には、結局その発明は引用例の技術思想と同一または均等の域を未だ超越するに至らざるものとみることもできるわけである。

原告主張の本願発明が前記認定のようなものであり、引用例記載のものとの対比において前記のように認めることができる以上、右の理由により本願発明は未だ引用例記載のものと同一ないし均等の域を脱するものとするに足りず、結局本願発明は旧特許法第四条第二号により同法第一条の特許要件を具えないものと判断せざるを得ない。

なお、原告は甲第四号証を提出し、本願発明に特許性ありとする資料に供しようとしているけれども、右の証拠は、引例の発明者である寺田進から原告にあてた年賀状であつて、そのうちに、原告の考えが実現されるべきことを期待する旨の記載はあるが、このことからして前記の認定および判断を左右し得るものでないことはいうをまたない。

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